いつの時代も人から愛され、社会に貢献できるエンタテイメントビジネスを追及する事。
1912 32 48 49 58 61 73 86 92 2000 |
寄席経営を始める(創業) 吉本興業合名会社に改組 吉本興業株式会社に改組 大阪証券取引所に上場 大阪、京都でプロレス興行を始める 東京証券取引所に上場 TV番組の企画制作会社「(株)アイ・ティ・エス」を設立 歌手の育成とマネジメントを目的とした「(株)エス・エス・エム」を設立 制作部東京連絡所を東京支社とする。 「(株)ファンダンゴ」を設立してインターネット事業に進出 |
芸人や歌手のエージェント業務。TV、ラジオ、CMなどの番組企画及び制作。飲食、
アミューズメント施設の開発・運営、不動産事業、インターネット事業、スポーツ事業
など多岐にわたる。
従業員数252名、そして所属タレント650名。
「漫才」とは二人の芸人が滑稽な会話を交わして掛け合いを進める興行物である。
漫才の起源は明治初期に盛んであった正月に家を訪れて歌ったり舞ったりする「萬歳(まんざい)」に遡る。それが大正時代には鼓と扇を使ったかけあいである「萬歳」へと変化した。更に昭和初期には横山エンタツ・花菱アチャコが現れ、彼らは従来の萬歳のスタイルであった鼓と和服姿をやめ、洋服姿で登場し、なおかつ歌を歌わずしゃべくりだけを行うという現代のスタイルを確立した。そしてその際に当時の吉本興業の宣伝部長であった橋本鉄彦氏が「萬歳」を「漫才」と当て字し、呼び方を改めたのである。
お笑い産業で名を馳せている松竹芸能の資本金は1億6000万円、渡辺プロダクションは 3000万円、太田プロダクションは1000万円と資本金の額から見ても吉本興業の圧倒的強さが分かる。もちろん他社は吉本興業ほど色々な事業に参入していないので、資本金だけで状況を把握するのは困難である。しかし同じお笑い産業を基盤に置いているにも関わらず、お笑いで得たノウハウを活用して色んな事業に展開していっている積極性を持った吉本興業とお笑い産業のみに踏みとどまっている消極的な他社とではやはり大きな差があると言えるだろう。
@色々な事業に参入されていますが、一番成功されている事業(お笑い、レコード会社以外で)を教えて下さい。又逆に失敗された事業があれば教えて下さい。
A:一番成功している事業はお笑い以外ない。新喜劇が30年、漫才は大正から、そして落語は明治からずっと続いてきている。それに現在好感度ナンバー1に選ばれ続けている芸能人は明石家さんまだが、ずっと前は好感度ナンバー1に選ばれるのは俳優ばかりだった。30年前に萩本欽一が好感度ナンバー1に選ばれてから芸人が好感度ナンバー1になるようになってきた。これは凄い事だ。
失敗した事業はいっぱいある。ディスコも失敗したし、レコード会社や海外ももう既に失敗しつつある。失敗すればいい。失敗した事業の方が多い。
A先程失敗した事業が多いと言われましたが失敗した事業からはいつ頃から撤退し始めるのでしょうか?
A:最初に「2億円まで」と言う風にリミットを決めておいて、そこに来たら手を引く。たいていは5億円位まで。うちは大企業じゃないから「100億円まで」、なんていう大きなリミットは設定できない。
B関空が御社にキャンペーンを依頼したそうですが、新喜劇海外公演(海外在住の邦人向けの企画)の他にはどのような企画(国内の日本人向けの企画)を考えていますか?又このキャンペーンによって御社にはどのような商業的利益が生じるのでしょうか?
A:既にNYなどで新喜劇の公演を何回か行っている。そういった公演に10年間海外に住んでるという大阪出身の人などが公演を見に来てくれたりする。
商業的利益なんて難しい事考えなくていい。どんな事業だって確実に利益得られるといって参入していった会社はない。そんな事業がもしあったらどこの会社も参入していく。コピーのリコーにしろ、最初から成功すると思って事業に参入しに行く会社はない。最初から利益があるかどうかなんて絶対に分からない。企業の投資は不確定なものであり、誰だって分かってやらない。それに吉本は100万円かかって120万円帰ってきたらいいというように考えている。
C堅実な御社がリスクの高い海外展開(上海事務所設立等)に積極的なのはなぜですか?
A:台湾で今度吉本新喜劇を作るのだが台湾にも相声という中国の漫才がある。いわゆる小話のようなもの。日本と台湾の笑いはもちろん共通ではないが共通な所もある。音楽が糸口となって中国で展開できたら、と考えている。ただ経営学上では中国は人件費が安いというそういった利点ばかりしか言われないが、実際はあの中国人の大国意識と向き合うのはかなり辛い。上海に行ったら色々学ぶ事ができる。
D現時点で今後新たに新しい劇場を作られる予定はありますか?
A:今の所立地する予定はない。それよりもソフトの充実の方を先に計りたい。ソフト、つまりタレントや企画が何よりも優先すべき事であると考えている。今舞台に立ち続けている芸人は宮川大助・花子、今いくよ・くるよ…という風に10年間全く変わっていない。だからと言って新しい劇場作ってそこに新しい芸人を入れたからといって勝手に人材が育つとは思っていない。うちはそう言った箱(劇場)先行では考えていない。
E今後どのような事業に新たに参入されたいとお考えでしょうか?
A:人の喜ぶことなら何でもやります。介護や船舶…など色々。ただいきなり参入していくのではなく、例えば介護事業であれば「字幕ビデオ→○○→介護サービス」と言った風に必ず順を追って参入していく。また既に参入している他社と提携してその他社からその事業のノウハウを提供してもらう。もちろん逆に他社に対して吉本はお笑いで得たノウハウを提供して他社が面白い商品を開発したりする手助けをしている。
Fいつ頃から多角化経営を始めたのですか?
A::バブル前頃から多角化を始めた。地上波がダウンサイズするのが目に見えていたので多角経営を始めた。アメリカ程ではないが(アメリカは70%位)、事実今や日本の地上波は85%にまでダウンサイズしてしまっている。
@第1回目が終わりましたが、このイベントを続ける事によって主旨通り本当に漫才ブームが再来すると思われますか?目的は芸人の漫才に対する意識改革のためだけなのでしょうか?
A:視聴率は東京で9%、大阪で21%。東京の9%はテレビ朝日7時ではいい方の視聴率だった。どちらかと言うと、大阪の21%という数値の方が異常だ。クリスマスの日に皆「今日はM−1あるから」と言って早く家帰って見てるというのは絶対に異常。ブームは起こればいいなぁ程度に考えている。別に漫才への意識改革ではなく芸人は自分の芸をやっていればいいと考えている。
A大阪と他地区の一般審査員とでは点数の反応が真逆であり、大阪では少々地元贔屓がみられたり、また逆に他地区では爆笑オンエアバトルで名を馳せている芸人だけが異様に点数が高く、知名度に左右されおり、どちらにしても公平ではなかった感じがしましたが次回の選考方法では何か改善される予定はあるのでしょうか?
A:全ての世論調査に公平という基準はない。公平なんてものを作ることは絶対に不可能。
でもこういった意見があったという事をM−1スタッフに伝えておきます。
B東京の会場のお客さんを一般審査員に加えなかったのはどうしてですか?
A:東京の会場では空気が欲しかったから。そう言った審査するというような硬い雰囲気ではなくて純粋に漫才を楽しんで見ているという空気を作りたかった。
Cどう考えても毎日舞台に立っているプロの方が強いのは当然であり、又今回準決勝に残ったどのコンビもプロの方であったにも関わらず、あえてプロアマ混合にこだわる理由を教えて下さい。そして即席コンビの参加も制限すべきではないのでしょうか?
A:誰が出てもいいから制限しない。そしてプロが強いのは当然だ。ゴルフにしたってアマチュアよりもプロの方が強い。
@お笑いとその他の事業とを結び付けている企画や番組(「ドカンッ!」でのRUN&GUN出演、「ZAIMAN生一丁」での大阪プロレス出演等)を多く見受けられますがこれに対してお笑いのファンの方からはどのような反応がありましたか?同時に売り込む事によって本当にそれぞれのファン層を広げる事が出来ているのでしょうか?
A:どんな形であれやっぱりタレントにとって何よりも露出というのが一番大切。タレントの人気というのは「知名度+α」から成っていて、例えどんな嫌な奴だろうと嫌われていようと知名度高ければそれでいい。そのために露出は欠かす事ができない。
A御社も社内でリストラを行ったりしているのでしょうか?
A:行っていない。吉本の社員は少ないので。新規採用社員は去年は6名位。派遣社員が最近増えている。「リストラ」という人減らして経営を良くしようとするのは経営者として最悪最後の手段だ。他の大企業でリストラをよく行っているがリストラ行って最初に抜けるのは優秀な人だけ。そこを辞めても他の企業でやっていけるという自信がある人はすすんで辞めていくが、能力のない人間は他では生き残れないから今いる企業に必死にしがみつこうとする。リストラは全くいい事じゃない。大学の教授は「リストラを行って経営再建。」と言ってるが実際の経営は教科書とは全く逆。またリストラするということは何百人もの社員の生活、またその家族の生活まで奪うことになる。とんでもないことだ。
Bあまりお聞きしないのですが芸人さんのスカウトは行っているのでしょうか?
A:ほとんどない。(構成)作家で「面白いな。」と思った人をたまにスカウトする程度。
Cなにわ座が閉幕しますがお客さんがその分花月やbaseへ流れてくると思われますか?
A:全く思いません。
D企画に呼ぶ団体等はどのように決め、またいつ頃出演依頼を行っているのでしょうか?(市大のあるクラブに超合金から3日後本番と言う依頼が来てあまりに急だった為断ったそうなのですが…)
A:これは各フロアディレクターの能力、つまり裁量による。ディレクターとかになると態度が大きくなって偉そうになって、急な出演依頼を行ったりする。ただそういう人は30代後半位になったら肩たたかれる可能性が高い。
E所属しているタレントが自分達の扱いについてよく御社に対しての文句を言っていますがそれに対して上層部の方はどう思われていますか?
A:全部シャレだからいい。嫌な仕事を断りに行く事だけが会社側がタレントに対して行う役目。でもこれは一番きつい役目。例えばからくりTVから明石家さんまを下ろさせてもらうという事になったとしたら、からくりにかかわる100人位のスタッフの仕事を一気に奪うことになる。またずっと提供をしてもらっているタケダ薬品とからくりTVとの長年の信頼関係を壊しかねないのでその信頼関係を保てる新しい番組を作ったりしなければいけない。だから断る役目はとても難しい役目だ。
F一年で一番御社がお笑い産業において忙しい時期はいつですか?それはなぜですか?
A:ずっと。あえて言うなら年末。ただ年末が終わったら年始特番やその次は春の期首特番があったり…とやはり一年中忙しい。基本的にうちはタレントと契約は行っていない。
Gタレントと契約はしていないとおっしゃいましたがどういう事ですか?
A:契約はせずに仕事を吉本を通して受けているだけ。ダウンタウンとも契約していない。それなのに他社に行ってしまわないのはお互いにとってその方(吉本を通して仕事を受ける事)が条件がよく、また他企業に行っても吉本を通してる時程稼げないから。
H今吉本がオススメしている芸人は誰ですか?やはりM−1で優勝した中川家ですか?
A:違う。違うと言ったら中川家に失礼かもしれないが、基本的に吉本がどの芸人がいいとか悪いとかは決めないことにしている。決めるのは僕らじゃない。見てるお客さん皆が決める。私は今売れてる芸(芸人)が本当に面白いのかどうかよく分からない。だけどその芸は売れている。売れた芸がいいんだ。いいかどうかはお客さん、特に若い女性が判断する。だから女性にもてない芸人は売れない。
だから社員も自分が面白いと思う事をしっかりと皆(視聴者)にも面白いとわかる形で企画にできなければいけない。例えば「エルメスよりグッチの方がいい」という考えを持つ人の場合、どうしてグッチの方がいいのかをちゃんと皆に説明できなければいけない。プレゼンテーション能力は絶対に大事。前に船がとても好きで、芸人と船とを上手く使った企画を考えて実際行った者もいる。
INSCからbaseよしもとに上がれるコンビは毎年数組程度しかいませんがどのような基準で決まるのですか?
A:基準は初公演で50人呼べるかどうか。何よりもその芸人の人脈にかかっている。初舞台から人気がなければ駄目だ。卒業公演を行うよりもNSC入るよりも前に既にそう言ったことは決まっている。いきなり漫才師になろうと思ってNSCへ入っても生き残れない。面白くて人気のある人間は昔から人気があって人脈も広いので人を呼べる力がある。
重要なのはNSCで磨いた漫才の技術よりも人間の総合力。こういった物はその人の育ちが深く関わっている。面白い芸人の親はなぜかやっぱり面白い。芸人がネタで面白く言っているだけなのかもしれないがネタで聞く親の話はかなり面白い。貧乏だろうとどんな環境だろうと育ちが大きいと思う。
Jライバル社はいますか?
A:いない。こんなに色んな事業を行ったり、子会社作ってる会社はないので比べ様がない。松竹芸能を別に競合他社だとは思っていない。そんな風に横並びには考えていない。あえてライバル社を言うなら吉本はディズニーと言う事にしている。今は皆吉本が「ライバルはディズニーだ。」と言ったら笑うかもしれない。だけどディズニーはここずっと映画にヒット作はない。「101(ワンオーワン)」にしろ過去のヒット作にずっとしがみついて商売しているだけだ。過去の遺産にしがみついているようでは、絶えずヒット作がないようでは、会社は駄目になる。だから吉本がいつか本当にディズニーを追い越せる日が来るかもしれない。
・まず小室哲哉氏が吉本入りしたことはTVなどで結構騒がれたけれど、実際音楽事業は失敗しつつある、更には失敗した事業の方が多いと聞いて吉本興業はお笑い以外の事業展開に関してはある意味バクチ的な感じがした。またお笑いに関しても個人的には昔からかなり売れているイメージがあったので“劇場を多く作った方がより発展するのでは?”と思っていたが、実際は現実は人材やネタの充実を図ることがまだまだ必要だという事に驚いた。
・吉本は優良企業と言われていますが、それはリストラをしなくてもすむ体制だからなのだと思いました。リストラは経営者にとっては最低最後の手段とおっしゃっていましたし。今まで単に「リストラ=人員削減」としてしか認識していませんでしたが、実際問題としてリストラをするという事は、その人の生活手段を奪う事ですし、その家族にとっては、生活環境を変えさせる事なのだと実際に話を聞いてとても納得させられました。吉本はそこまで考えられるので、優良企業だとやはり呼ばれるのだと感じました。
それから、レジュメに示した私達の視点と、経営者の視点との間にとても大きなギャップがあるという事に気付かされました。あくまで私達の視点は消費者サイドであって(当たり前ですが)消費者が気にすることは、経営者にとっては気にならない事であったり、同じ一つの事柄に対しても、消費者から見る角度と経営者から見る角度とでは全然違うのだと思いました。そこに衝撃をとても受けました。
・企業見学の際は、興味深い話をお聞かせ頂いただけでなく、舞台の袖や、撮影前とはいえ撮影の現場まで見せて頂き、非常に貴重な経験をさせて頂きました。所で、色々な興味深い話がありましたが、中でも特に共感したものが3つあります。
まず1つ目は、「事業は繋がりを持って展開していくものだ」という内容の言葉です。
つまり、新しい事業を始める場合でも、これまで培ってきた経験や人間関係を生かして行う、ということです。どういったきっかけで新規事業を始めるのか、ということに僕は前々から興味を持っていたので、その言葉には納得できました。
次に「自信を持てるもの(もしくは自分の好きなもの)を有効に利用する」という話です。オールマイティに何でもこなす、というのも素晴らしい能力だとは思いますが、今の時代を考えれば、それよりも一芸に秀でているほうが強いのは確かだと思います。もちろんそれが一芸のみでなく二芸、三芸・・・・というように「引き出し」が多ければ多いほど力になると思いますが。
そして3つ目の話が、僕は最も共感でき、深く印象に残っています。それは、「リストラをしない」という観念です。僕は大学入試の小論文でも、リストラには大反対であるという趣旨の文章を書き、それ以来、様々な企業活動の中でも「リストラ」に最も関心を持っています。その為、見学会の最後でも「なぜリストラをしないのですか」という質問をいたしました。その時お答え頂いた内容には深く共感し、感動さえしました。リストラをしようとする時、たいてい最初に会社を離れていくのは優秀な社員です。つまり、リストラは企業にとって、コスト削減というより人材の流出という危険性の方が高いと思います。それより何より、リストラをすることにより、解雇された人の人生を変えてしまうという人道的な部分で、僕はどうしてもリストラには賛成できません。単
に「コストを削減する」ためにリストラをするような企業は病んでいると思うし、一時的にコストの削減に成功したとしても、その後の成長ということを考えれば、いつか必ず痛い目にあうはずだと思います。
そういったことを考えても、やはり吉本興業は、いろんな意味で「大阪を象徴する元気な企業」だという印象を強く受けました。
・大学で習っているような事と実際の経営とでは全く異なるのだと気付かされました。経営を建て直すにはリストラするしかないだとか、中国は人件費が安いのでどんどん中国へ参入していくべきだとか型どおりの経営学をそのまま真に受けていましたが実際はそんな教科書通りの物ではないのだと今更ながら気付かされました。正直、芸人さんの漫才等のネタ中で聞く吉本興業のイメージが強かったもので、社員に厳しい会社なのだという偏見を持ってしまっていましたが、実際お話を聞いてみるとどの会社よりも社員に優しい、どの会社よりも社員の事を気遣っている、果ては自分の会社と関わる他社の社員の事まで気遣う心の広い大阪の気質溢れる、大企業にしては珍しい素晴らしい会社なのだと憧れが更に強くなりました。吉本興業にヒアリングに行ってなかったら自分はどんなにつまらない考え方しかできないままであったかと思うととても恐ろしいです。今回吉本興業へヒアリングに行く事が出来て本当に良かったと思います。