日本マクドナルド


1 見学の理由

ファーストフード業界で常にトップを走り続けているマクドナルド。最近では、ショッピングセンターや少し規模の大きいスーパーが新しく開店すると、必ずといっていいほどマクドナルドを見かけます。それほど日本人に求められ、この厳しい競争の時代にあっても衰えるところを見せない。半額商品など常に新しい企画を世に送り出し、成功しているマクドナルドの強さは何なのか。それを知りたいと思い、今回、質問する機会を設けていただきました。
マクドナルドの強みである価格競争力、商品開発力、店舗展開力、の3点を軸に質問をまとめました。

 質問と回答

T.価格競争力に関して

@御社は他のハンバーガー店など、どのファーストフード店と比べても常に客単価は低く私たち消費者にも「マクドは安い」という意識があります。にもかかわらず2年ほど前からハンバーガー平日半額セールを実施され、大幅な値下げをされました。この平日半額セール実施に至った経緯についてですが、半額にすることによって得られる効果としては、どんなことを予想されていたのですか。
A:売上を伸ばしたかったから。売れる数量が増えれば、ハンバーガー1個あたりにかかるコストは下がるので採算はとれる。例えば、食材費は仕入れの量が増えれば下がるし、固定費の部分は売れる数量で上下しないので、たくさん売れれば65円でも販売できる。加えて、半額セールによって来客数が増えれば、他のメニューも売れる。

Aハンバーガー、チーズバーガー、フィレオフィッシュを半額にすることによって、これら以外のメニューの売上はどう変化したのですか。

A:ダブルバーガー、ダブルチーズバーガー、てりやきマックバーガーの売上は減った。チキンタツタ、ビッグマックはほとんど変わらなかった。これらの値段はもともと高いが、好きなお客様は買ってくれていた。つまり、他にない特性をもったメニューには、値段に左右されない支持者がいるので、逆にこうしたメニューは値下げしない。

B半額セールの実施によって、消費者からはどんな声がありましたか。

A:ハンバーガーのサイズが小さくなったのではないか?材料の質をおとしているのではないか?なぜこの3品しか値下げしないのか?土日はなぜ値下げしないのか?など。

C2月14日で半額セールは終了し、定価の値下げが行われるそうですが、半額後に定価の値下げを行うというのは、はじめから計画されていたのですか。

A:いいえ。できれば半額システムは続けたかったが、円安基調で原材料の調達コストが上がったことや、数年後に起きるであろうインフレ傾向に備えると続行できなくなった。というのも、消費者に対する情報はできるだけ変えない方がよいから。時々刺激を与えつつ、それを定着させたいところ。CM代など告知にも費用がかかるので。

U.商品開発力に関して

D御社が対象としている市場は、ハンバーガー市場だけでなく、その他のファーストフード、喫茶、弁当や惣菜、パン、コンビニなど、食に関する様々な分野となっています。最近では、カフェブームの影響により、プレミアムコーヒーが登場するなど、新メニューの考案には様々な試行錯誤があるかと思います。こうした新メニューを考案する際の基準や制限はあるのでしょうか。
A:メニューの考案は商品開発部で行うが、その時の基準は、誰が作っても同じ味になるような商品であること。食品の安全性や品質の管理、大量生産ができること。これらをクリアできる商品でなければならない。例えば、フィレオフィッシュのタルタルソースは人の手に直接触れることなく機械によって注入できるシステムになっている。また、持ち帰れるものであることも条件。

  特に都心部では会社員やOLを対象としているので、おしゃれである、健康に気を使う、ホンモノ主義といったことも重視しており、価格はあまり関係ない。マクドナルドが寿司を出すのを消費者が望んでいるか、という問題で、常に消費者の声に応えるべく、年に2・3回モニター調査を実施している(マクドナルドの名は伏せて自由に感想を出してもらう)。これを商品開発に活かしている。実際に何百も作って、採用されるのは2・3個。

E狂牛病の問題により、御社も影響を受けていると思われますが、商品の売上にはどのような変化がありましたか。食品を扱う企業として、こうした問題にはどのような姿勢で取り組んでおられるのですか。

A:マクドナルドだけでなく、牛肉を扱う業界全体で10〜17%の売上が減少している。マクドナルドとしてはオーストラリア産であることを、まずは店頭のポスターで、次にCMで宣伝している。一度不信感を与えてしまったらおしまいなので、安全性の管理には厳しいマニュアルを設けている。例えば、厨房には水を撒かない。30分に1回の手洗い、温度管理は徹底している。

V.店舗展開力に関して

F御社は、集客力のある商業施設や公共施設を展開している企業とアライアンスを結ぶことでも、店舗数を拡大されています。こうした店舗展開では、売り場面積が狭いなど、単独で出店するよりも制限があるかと思いますが、何か工夫されていることはありますか。
A:アライアンスを締結しているのは、ジャスコ、マイカルのイオングループ、鉄道、学校、病院、遊園地、ディズニーなど様々。例えばディズニーとのアライアンスでは、マクドナルドでディズニー映画の広告を行う一方で、キャラクターを使用したりする。

制限はいろいろある。スーパーには開店時間などに指定があるため、これらに合わせて他の店舗の配送時間を組替えたり、厨房が狭いため限定メニューになったりする。特殊な例としては、米軍基地の中のマクドナルドでは、ドルで販売している。関西空港のマクドナルドは配送コストが他よりも高いため、必然的に価格も他と異なり高くなってしまう。

G昨年秋に東京都心部で始められた「マックトーキョー」のように、地域や店舗ごとに独自メニューを始める動きがあるようですが、創業以来の方針であった「全店統一メニュー」を変えていこうのは、どんな理由からですか。

A:理由の一つは、先ほどのアライアンス関係によって、メニューを限定しなければやっていけない状況が生まれてきたこと。全店統一メニューでなくても、主力商品をそろえておけばよい。それより重要なのは、その地域のニーズを把握し、重視していかなければならないということ。例えば、新大阪のマクドナルドに求められるのは、豊富なメニューよりも、@はやくAまちがえるな、なのだ。同じように考えて、都心部のコーヒーを求めるニーズに応える形でマックカフェが登場する。コーヒー専門店と同じように豆やマシンにもこだわる。しかし、全店にプレミアムコーヒーを入れることは考えていない。あくまでもニーズのあるエリアに絞る。その見極めが重要になってくる。

 マックトーキョーに関しては、間食時間帯のメニューを増やして欲しいという都心部のニーズと、商品数が増えると効率が悪くなるというマクドナルドの都合の折衷案という形で生まれた。ニーズがあれば、マクドオオサカも考えられる。

お客様のニーズを無視すれば必ずつぶれる運命にある。よって今後は、そのエリアのニーズに一番詳しい店長のアイデアを採用し、その地域限定のシステムやメニューが出てくるかもしれない。

W.その他の質問

H国によって同じ商品でも価格に差がありますが、この場合マクドナルド・コーポレーションに支払う額にも差が出てくると思います。例えば中国など物価の安い国の場合こうした額は回収できるのでしょうか。
A:国によって、人件費や材料費、配送コストが異なり、物価の安い国ではこれらの費用が安いので大丈夫。

I世界でも特に珍しいメニューにはどのようなものがありますか。

A:インドでは宗教上の理由により牛肉を使ったメニューはない。宗教上の問題で言えば、男女で別々のカウンターになっている国もある。

J注文を受けてから100秒以内に商品が出来上がる新調理システムのメイドフォーユーを導入することにより、廃棄率はどう変わりましたか。

A:導入前は1%弱あったロスが、0.5%と半分になった。やはり食べ物を捨てるというのは問題があるので、このシステムの全店配備を目指している。

 感想

・半額にしていた経緯と、それをやめて土日と平日の値段格差を無くした理由などを詳しく聞け、企業の戦略が理解でき、大変有意義でした。
狂牛病の件について、自分が想像していたよりも多大な影響を受けておられる事を知り、それをどのように回復させるか頭を悩ませておられると聞いて、狂牛病の与えている影響の大きさを目の当たりにしました。

食品業界は消費者の信用を裏切るようなことをしては駄目だと痛切に感じました。

・生徒の力だけで見学を進めていくことに緊張と不安を感じていましたが、丁寧に進めてくださったので、ヒアリングはスムーズに運びました。だた、お礼等が不十分だったと感じたので、就職活動の面接の時には注意したいと思いました。

内容に関しては、マクドナルドの安全性に対する姿勢に大変安心しました。Y印社の事件により食品業界に対して不信感を抱いていましたが、他社もマクドナルドのように安全対策を徹底してくれれば、業界の信用も回復すると思います。

今回の見学で、食品業界に非常に興味を持ちました。以前から環境方面に興味があり、環境と食品は切っても切れない関係にあるので、そちら方面に就職を考えるきっかけとなる見学になりました。

狂牛病や雪印の問題で、食品業界が一度信頼を失うと、どういう運命になるのかを目の当たりにしているので、マクドナルドの安全管理に対するシステムや日々の取り組みがいかに重要であるかを痛感しました。当たり前の事を徹底してやっておられるところに、トップ企業の見えない一面を垣間見た気がしました。

・カフェ業界との競争をどのように考えておられるのか、興味がありました。現在のブームを無視することはできないため、需要のある都心部ではもちろん意識して競争もしていくが、ブームが去ったとき同じように縮小してしまっては意味がない。その場合のことを念頭におきつつ、必要ならメニューに加えるが、無駄に手を広げない、と考えておられることがわかりました。

多様化する市場のニーズにどういった形で応えていくかが、難しいところでもあり、私たちにとっては興味のあるところでした。マックトーキョーやマックカフェのように、従来とは異なる形態での展開がされていますが、こだわるところにはこだわり、制限があればその中で対応していく、という駆け引きが経営の面白さでもあると感じました。